地域おこし協力隊OB・OG紹介~杉村和紀さん~

(自身で古民家を改修デザインした住居に住みながら、念願だった自然豊かな環境での子育てを実践中の杉村ご夫妻。)

「自然豊かな環境の中で子育てを」

杉村和紀さん 30代 東京都からIターン
「すぎむら意匠計画」代表

杉村さんが長門市に来るまで(移住の経緯)

 大学時代からずっと東京で生活していたのですが、結婚したタイミングで子育てについて考え始めたときに、東京ではなく自然豊かな環境で子育てをしたいと思ったのがきっかけで、出身地である山口県内への移住を検討するようになりました。自分は周南市の出身ですが、祖父の家が美祢市にあったので、子育てをするなら、山口県の中でも豊かな自然が残っている長門市や美祢市など山陰側がいいなと漠然と思っていました。協力隊に応募したきっかけは、当時設計事務所で働いており、移住先で独立したいと考えていたのですが、縁もゆかりも人脈もない場所で事業を始めるにあたって、まずは地元に馴染める仕事をしてみたいと思い、地域おこし協力隊に興味を持ちました。

▲キャンプもできる日本海を望む千畳敷
▲日本の棚田百選にも選ばれた棚田の風景

長門市の地域おこし協力隊を選んだ理由

 東京で毎年開催されている移住フェアに足を運び、地域おこし協力隊の求人について情報収集をしたのですが、そこで長門市の日置(へき)地区担当が募集されていることを知りました。もともと東京でやっていた住空間のデザインの仕事を移住先でも引き続きやっていきたいと思っていたので、長門市の協力隊は副業が認められていたのがいいなと思いました。また、地区担当だと活動内容の幅が広くて自由度が高そうな点や、人間関係などの基盤作りができそうな点に魅力を感じ、日置地区の協力隊に応募し、採用されたので長門市に移住してきました。

 私たち家族は自然が豊かな場所に住みたいと思っていたので、長門市の中でも、市街地ではなく、田園風景が広がる日置地区ののどかな雰囲気は自分には合っていたと思います。

▲インタビューに応えてくださる杉村夫妻
▲のどかな田園風景が広がる日置地区

協力隊時代の活動内容を教えてください

 日置地区の担当として、「高齢者の生きがいづくり」「交流人口の拡大」「空き家調査」の3つをミッションに活動をしました。基本はそれらをベースに自分でいろいろと考えて活動していくという感じでした。1年目は様々なイベントや人が集まる場へ足を運び、人脈作りに注力しました。2年目からは人の繋がりができてきたため、地域の方々と何かプロジェクトをできないかと思い、企画書を作っていろいろと提案をしました。3年目は、「交流人口の拡大」を目的に、空き家となっていた趣のある10坪の洋館を、地域の方が気軽に物販・展示スペースとして活用できるようにしたいと思い、リノベーションをしました。そして、自分でも地域の農産物や加工品を販売する「ちいさなへきの市」というマルシェを企画して、毎月1回マルシェを開催し始めました。「ちいさなへきの市」は自分が協力隊を退任した後は地域のまちづくり協議会が引き継いでくれて、この7月まで定期的に開催されていました。他には、「高齢者の生きがいづくり」を目的とした、苔商品を製造・販売する苔事業を立ち上げました。協力隊退任後、苔事業は自分の事業として引き続き取り組んでいます。現在は、苔商品を海外に売りたいと思っていろいろな手続きをクリアしながら進めています。

▲大正時代に建てられた洋館を活用したマルシェ「へきの市」
▲「へきの市」では日置地区の農産物・物産品を販売していた
▲へきの市には日置地区で採れた野菜が並んだ
▲「高齢者の生きがいづくり」の一環で始めた苔事業

協力隊の活動中、悩みやうまくいかなかったことはありますか?

 活動範囲が広いので、「何を軸として活動していくか」ということに悩みました。3年間は短いし、自分はこれをやると決めて行動するまでは焦りがすごくありました。最初の頃は空き家の情報を集めてみようと行動してみたものの、自分の力不足ですぐに売買、賃借できる物件を集めるというところまでを形にできなくて挫折もしました。初動はなかなかうまくいかなかったですね。

 また、最初の1年間は様々なイベントに顔を出せましたが、2年目以降、コロナウィルスの流行をきっかけに全てのイベントが中止となり、今後どうしていくのがいいかを模索していました。3年目から始めた、洋館を改装して、月1回のマルシェ「へきの市」を開催するようなってからやっと焦りもなくなり、思うように活動できるようになったという感覚があります。

 

協力隊活動中、頼りになった方はいますか?

 受け入れ先だった、まちづくり協議会の集落支援員の宮崎さんには大変お世話になりました。宮崎さんが週3日同じ事務所にいらっしゃったので、暮らしていく上で不安なことや気になったことは何でも相談していました。宮崎さんも民間の企業で働いていて退職後、集落支援員をされていたので、気持ち的に共有できる部分も多くて助かりました。身近に相談に乗ってくださる方がいるというのは心強かったです。受け入れ先の担当者の方としっかりコミュニケーションをとることはとても大事になってくると思います。協力隊の活動については長門市役所の担当職員さんに相談しながら進めていました。

協力隊退任後は、どのような仕事や暮らしをしていますか?

 協力隊退任後は、移住当初の予定通り、デザイン事務所を開いて古民家改装の内装デザインなど、主に住空間のデザインを軸に仕事をしています。東京にいた頃に請け負っていた仕事を今でも引き続きやっていますが、今はそれにプラスして地元の方からの設計の依頼なども増えています。やはり地元の仕事が増えていくのは嬉しいですね。

 今、自分たちが住んでいる住居は、協力隊退任後に古民家を購入して、柱だけを残してフルリノベーションをしました。設計・解体は自分たちでやって、改装工事は業者さんにお願いをしました。改装工事は自分たちでやると手間も時間もかかるうえに、結局うまくいかないことも多いので最初からプロにお任せしました。壁と天井の塗装は予算がオーバーしたので自分たちで2週間かけて頑張って塗りました。良い思い出になりましたが、結構大変だったので、予算がオーバーしなければプロに頼みたかったですね。(笑)

 古民家改修はどこまでやるかによりますが、新築を建てるよりも安く仕上げることは可能だと思います。自分たちの理想の間取りに変更することも可能だったりするので、住空間のデザインをする身としても、いいハコに出会えるなら新築よりも古民家を購入して改装して住むのをお勧めします。

▲古民家を改装デザインした自宅。優れた建築意匠に贈られる「長尾重武賞」を受賞
▲自分たちが住みやすい間取りに変更
▲古民家をフルリノベーションしました
▲子どもがのびのびと遊べる暮らしを実現

長門市での暮らしで好きなところ、大変だなと思うところはありますか?

 この暮らしで好きなのはやはり自然豊かな点です。今住んでいる家は、日置地区の中心部に近く、生活するのに必要なお店が近くに集まっているので暮らしやすいです。保育園も近くにあって歩いていける距離にあるのもいいなと思っています。今の家の周りは車の往来が少ないので、子どもも家の周りでのびのびと走り回ることができていて、思い描いていたような子育てができています。

 日置地区のみなさんはのんびり穏やかで優しく、自分たちには合っているなと思っています。このあたりは子どもも少ないからみんなが自分の孫のように娘のことを可愛がってくれるのもありがたいですね。

 大変だなと思う点は、私たちは長門市外へ外出する機会も多いので、空港や新幹線までのアクセスが1時間半かかるのが大変だなとは思っています。ただ、都市部に比べてアクセスが不便ではあるものの、自然豊かな環境で暮らしたいという思いの方が強いのでその辺りは割り切って暮らしています。

▲美しい海もすぐそばにある最高の子育て環境
▲休日にはキャンプを満喫

今後の暮らしで夢や目標はありますか?

 自然豊かな環境で子育てをしていきたいという思いを持って長門市に移住したので、引き続き、子どもがのびのびと暮らせるこの環境で暮らしていきたいと思っています。仕事の面では、今は内装のデザイン事務所ですが、2年後くらいを目標に設計事務所に移行していく予定で、空き家とか既存の建物の改修事業をやっていきたいです。協力隊時代から始めた苔事業も進めていきたいです。地域の方々とみんなで一緒に楽しみながらやりたいと思っています。

▲デザイン事務所から設計事務所へ移行するのが目標
▲窓から見える景色も美しい

移住や協力隊に応募を検討している方へメッセージ

 なぜ移住したいのか?理想とする暮らしをまずはイメージしてみてください。私たち家族は都市部ではなく、地方の自然豊かな環境で子育てをしたいという想いが強く、その想いを叶えることができそうだと思ったのがここ長門市でした。協力隊として活動できるのはたった3年間です。退任後の自分のビジョンや仕事を見据えた上で協力隊の職務内容を選んでいくのが大事だと思います。あとは、その街で暮らしていくイメージを少しでもいいから掴んでから移住したほうが、もし何かうまくいかないことが起こったとしても乗り越えていきやすいのではないかと思います。別に仕事だけではなくて、例えば、お店を開きたいとか、サーフィンがしたいとか、きれいな海の前に住みたいとか、そういうことでいいと思います。

長門市は自然が豊かな場所が好きな方にはもってこいの地域だと思います。協力隊制度だとバックアップもしっかりあるので、自然が好きな方にはぜひ移住を検討してほしいですね。

─事務所情報─

「すぎむら意匠計画」

Instagram https://www.instagram.com/sugimura_design/